介護コラム
介護士は利用者の散髪は可能?
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介護士が利用者の髪を切ることは、日常ケアとして認められる場合もありますが、理美容師法により無資格での散髪は原則禁止されています。本記事では、法的な注意点や許容される範囲、実施時の衛生・安全対策などを詳しく解説します。
介護士が利用者の髪を切る行為は可能?
介護士が利用者の髪を切る際には、理美容師法に基づく国家資格の有無や行為の目的が問題となります。無資格での散髪は原則として禁止されますが、日常生活支援の一環として行う場合や無償のボランティアであれば、法的リスクが低くなるケースもあります。具体的にどこまで許容されるかを理解し、適切に対応することが大切です。
無資格で髪を切る行為は違法?
理美容師法第3条では「理容業、美容業の業務を行う場合は国家資格が必要」と定められており、無資格者が散髪を行うと「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」に処される可能性があります。たとえ施設内であっても、有償で継続的に提供すると「業」とみなされ違法となるため注意が必要です。なお、日々の身だしなみを整える範囲で短時間に行う場合や、利用者の健康管理に欠かせない軽微なケア(毛髪の清掃など)は、業務の一環として認められる場合もありますが、事前に所管の保健所へ確認することをおすすめします。
ボランティアでの散髪は?
無償で行うボランティア散髪は「営利目的ではない」と判断されることから、理美容師法違反とならないケースがあります。ただし、継続的に実施し一定の技術水準を提供する場合や、施設外で利用者や家族から謝礼を受け取る場合は「業」とみなされる恐れがあります。ボランティアを行う際は、利用者・家族に目的や範囲を明示し、施設の同意を得たうえで、自治体のガイドラインや保健所の見解に基づいて実施しましょう。
理美容師法違反になるケース
以下のような場合には理美容師法違反となる可能性が高いため、十分に注意が必要です。
- 利用者や家族から料金や謝礼を継続的に受け取っている
- 施設外や訪問先で定期的に散髪サービスを提供している
- パーマやカラーリングなど理美容技術を伴う施術を行っている
- 保健所への届出や許可を得ず専用スペースで営業的に実施している
これらに該当する場合は、必ず有資格者の理美容師を手配するか、訪問理美容サービスを利用してください。
施設で髪を切る場合の注意点
施設内での散髪のルール
介護施設で散髪を行う際は、まず施設長や管理者が定めた規程やマニュアルに従うことが必須です。例えば、理美容師法との兼ね合いを踏まえ、無資格者が刃物を扱う場合の制約や利用者への補助範囲を明確化した規定を確認しましょう。
散髪場所は感染症対策の観点から専用スペースを確保し、手すりや段差のない床面、換気の良い窓の有無をチェックします。掃除用具や消毒液、予備のタオルなどをまとめた「散髪セット」を用意し、使用前後の清掃・消毒を徹底してください。
理美容室を併設している施設では、そちらと連携して訪問理美容師による定期的なカットをスケジュールに組み、施設スタッフは簡易カットや整髪でサポートに徹するなど役割分担を行うとトラブルを防ぎやすくなります。
利用者の同意を得ることの重要性
散髪は身体的な行為であり、利用者の人権尊重の観点から必ず事前に同意を取得しなければなりません。認知症の方にはバリデーション技法を用いて、言葉だけでなく表情やしぐさから理解度を確認しながら進めましょう。
書面での同意書を交わす場合は、実施内容(日時・場所・散髪者・使用するはさみの種類など)を明記し、利用者または家族・成年後見人のサインを得ておくと、万が一のクレームや事故時にも対応しやすくなります。
同意取得の際には「どの程度まで切ってほしいか」「スタイルの希望」「かゆみやごわつきの有無」など、QOL向上を意識したコミュニケーションを図り、利用者の満足度を高める工夫が求められます。
安全に配慮した散髪の実施
散髪道具は定期的に点検し、刃こぼれや固着がないか確かめてから使用します。使い捨てのカミソリやクリッパーの刃は一度使用したら廃棄し、医療廃棄物として適切に処理してください。
利用者が椅子に座れない場合は車椅子やリクライニングベッドを使い、頭部を安定させるためのヘッドレストを活用します。首や肩を支えるクッションを用いることで体勢保持が容易になり、切り傷などの事故リスクを低減できます。
床や衣服への髪くず飛散を防ぐため、防水性のケープやショルダータオルを使用し、散髪後は掃除機や粘着ローラーで毛髪を迅速に除去します。また、手指の消毒や手袋の着用を徹底し、感染症対策と衛生管理を両立させましょう。
緊急時に備え、消毒液や絆創膏、使い捨て手袋などを常備し、出血やアレルギー反応が起きた場合にすばやく対応できるよう体制を整えておくことが重要です。
利用者の髪を切る際に必要な準備
適切な道具の選定
散髪には介護士が扱いやすいプロ用の道具を揃えることが大切です。はさみは切れ味の良い理美容師用、バリカンはコード式または充電式の両方を用意し、刃の替えがあるものを選びましょう。すきバサミやコーム、ネックカラー、散髪用クロス、使い捨てタオルも必須アイテムです。ドライヤーは低温機能付きのものを選び、仕上げ用にブラシとヘアミストを準備すると利用者が快適に過ごせます。
また、床やチェア周りの掃除用に小型ブラシとダストパンを用意し、毛くずを素早く片付けられるようにしておきましょう。
衛生管理の徹底
利用者の安全を守るため、以下のポイントを押さえた衛生管理を実施します。
- 手指衛生:散髪前後に石鹸による手洗いとアルコール消毒を徹底し、使い捨て手袋を着用する。
- 器具の消毒:はさみやバリカンは作業後に分解し、理美容器具用の消毒液に浸漬。コームやすきバサミはアルコールスプレーで除菌。
- タオル・クロス:使い捨て製品を優先し、布製の場合は60℃以上の温水で洗濯・乾燥後に保管。
- 作業エリアの清掃:散髪後はブラシとダストパンで髪くずを回収し、床や椅子の消毒も忘れずに行う。
快適な環境づくり
利用者にとって安心・快適な空間を整えるポイントは以下のとおりです。
- 照明:顔全体が見える明るさに調整し、影ができないように複数の光源を使う。
- 椅子の選定:安全バーや固定ベルト付きの散髪椅子を使用。寝たきりの方には専用クッションやポータブル散髪台を用意。
- プライバシー:カーテンやパーテーションを設置し、他の利用者の視線を遮断。
- 室温・湿度:室温20~24℃、湿度50~60%を保ち、寒さや蒸れを防ぐ。
- 騒音対策:ドライヤーやバリカンの音が気になる場合は、静音モデルや吸音パネルを活用。
髪を切る上での介護技術
寝たきりの方の散髪方法
寝たきりの利用者に散髪を行う際は、まずベッド上に防水シートと使い捨てタオルを敷き、清潔な環境を整えます。頭部を安定させるために低反発クッションや小枕で頚部を支え、リクライニング機能を活用して背中の負担を軽減します。
散髪には軽量の電動バリカンを使い、肌を傷つけないガードアタッチメントを装着しましょう。髪が落ちた際はこまめに吸引や掃除を行い、感染症対策のために使用後は刃先をアルコール消毒します。
認知症の方への対応
認知症の利用者には、作業前に優しい口調で散髪の流れを簡潔に説明し、不安を和らげる声掛けを行います。見慣れたタオルやエプロンを用意し、視覚的に安心感を与えることがポイントです。
作業は短時間で区切り、こまめに休憩をはさむなど負担を減らします。慣れた理美容用具を使い、突然の音や振動を最小限に抑えることで、利用者のパニックや拒否反応を防ぎます。
車椅子の方への配慮
車椅子利用者には、まず車椅子のブレーキを確実にかけ、姿勢を安定させます。ヘッドレストとアームレストの位置を調整し、頭部をやさしく固定できるようにタオルを巻くとよいでしょう。
散髪中は座面の傾斜を調整し、首への負担を軽減します。床や車椅子シートに落ちた髪の毛はこまめに掃除し、車輪やキャスターに絡まらないよう注意します。最後に鏡で仕上がりを確認し、利用者自身にも満足度を確認しましょう。
介護士が髪を切るメリット・デメリット
メリット
感染症対策の強化
施設内で散髪を行うことで、外部の理美容師を招く際の接触機会を減らし、感染リスクを抑制できます。介護士自身が衛生管理の手順に基づき道具の消毒や手洗いを徹底することで、利用者への感染予防効果が高まります。
利用者の負担軽減
移動や待ち時間が不要になり、車椅子や身体的制約のある利用者にも安心してサービスを提供できます。慣れ親しんだ介護スタッフが散髪を行うことで、不安感やストレスを軽減し、利用者満足度の向上につながります。
施設職員の負担軽減
外部サービスの手配やスケジュール調整の手間が省け、施設運営の効率化を図れます。また、利用者の髪型や好みを継続的に把握できるため、個別ケアプランに合わせた理美容サービスを内製化し、運営コストの削減にも寄与します。
デメリット
技術不足によるトラブル
理美容師資格を持たない場合、カット技術が未熟で見た目の仕上がりにムラが生じる恐れがあります。利用者からクレームが発生したり、本人の満足度低下につながるリスクを考慮し、研修やマニュアル整備が必要です。
事故発生のリスク
鋏やバリカンを使用する際、肌を切る・挟むなどの事故が起こる可能性があります。特に認知症や皮膚の弱い高齢者には注意が必要であり、万一に備えた応急処置体制や保険加入の検討が欠かせません。
時間的制約
散髪にかかる時間は介護計画のほか、他の介護業務にも影響を及ぼします。多人数の利用者を抱える施設では、一度に多くの利用者を対応することで職員の負担が大きくなり、スタッフ配置やシフト調整の工夫が求められます。
おすすめの散髪方法
訪問理美容サービスの利用
プロの理美容師が施設や自宅を訪問して散髪を行うサービスです。カットやシャンプー、ドライヤーまで一貫して対応するため、清潔で整った仕上がりが期待できます。利用者の体調や持病に合わせて時間を調整してくれるほか、感染症対策として使い捨ての散髪ケープや使い捨てのバリカンカバーを使用する事業者も増えています。
事前に見積もりを取ることで費用が明確になり、介護保険の福祉用具購入費や日常生活支援総合事業の訪問理美容費用として補助が利用できる場合もあります。サービス提供前に理美容師とのカウンセリングを行い、好みの長さやスタイルを伝えておくと安心です。
家族による散髪
家族が利用者の部屋や居室でカットを行う方法です。身近な人が行うため利用者の安心感が高く、コミュニケーションの一環として利用できます。道具は電動バリカン、散髪用ケープ、使い捨てシート、消毒用アルコールなど基本的なものを用意しましょう。
安全に配慮して必ず椅子や車椅子を固定し、滑り止めマットを敷くなど転倒・転落防止策を徹底します。また、鏡の位置や照明を工夫して視界を確保し、カットが難しい箇所は細かく確認しながら進めると仕上がりが安定します。カット後の髪くずは掃除機や粘着ローラーで丁寧に取り除き、衛生環境を保ちましょう。
セルフカットのサポート
利用者自身で髪を整えることを支援する方法です。握力や手先の動きに不安がある場合は、軽量タイプのバリカンやグリップ付きハサミを使用すると取り扱いが楽になります。長さを一定に保つためのアタッチメントやガイドコーム付きのバリカンを取り入れると、自分でのセルフカットがぐっと簡単になります。
サポート役は利用者の手元をそっと支えるだけでなく、手順を分かりやすく口頭で伝える、あるいは実際に動画や写真で示すと理解が深まります。切り残しや左右のバランスを確認するために、小型の手鏡やヘアクリップで分け目を作ると良いでしょう。最後にお互いに鏡を見ながら調整し、納得のいく仕上がりを目指します。
まとめ
介護士が利用者の髪を切る際は、理美容師法違反を避けるため資格や施設ルール、利用者同意、衛生管理を徹底することが不可欠です。メリットとして感染症対策や負担軽減が得られる一方、技術不足や事故リスクには注意が必要です。訪問理美容サービスや家族、セルフカット支援を活用し、安全で快適な散髪を実現しましょう。必要に応じ介護士研修や理美容師との連携も効果的です。
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